脱炭素社会とは?課題や実現への取り組みなど解説

脱炭素社会とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出をできる限り減らし、地球温暖化を防ぐことを目指す社会のことです。近年、カーボンニュートラルへの取り組みが世界中で加速し、多くの国や企業が「2050年までに実質排出ゼロ」を掲げています。
環境意識の高まりや法規制の強化により、企業活動においても脱炭素への対応はもはや避けて通れない課題となっています。担当者として「まずは脱炭素とは何か」「なぜ求められているのか」を知ることが、今後の方針検討に重要です。
本記事では、脱炭素社会の基礎知識や世界と日本の現状、企業として押さえるべき視点と課題について、やさしく解説します。
目次
脱炭素社会とは?
脱炭素社会は、人類の活動による二酸化炭素排出を実質的にゼロにすることを指します。具体的には、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を減らし、再生可能エネルギーへの移行などを通じて達成を目指します。ただ、完全な排出ゼロは困難なため、排出削減と回収のバランスを取る方針が採られています。2015年のパリ協定採択により、世界平均気温上昇を1.5℃以内に抑える国際的な取り組みが始まりました。日本も2050年までの脱炭素社会実現を目指し、国を挙げて取り組んでいます。
低炭素社会との違い
脱炭素社会と低炭素社会は、どちらも地球温暖化を防ぐための取り組みですが、目指しているゴールのレベルが異なります。脱炭素社会は、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出をほぼゼロにすることを目指す社会です。ゼロにするためには、化石燃料の使用をやめ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーに切り替えていくなど、社会的に大きな変化が必要です。
一方、低炭素社会は、温室効果ガスの排出をできるだけ減らすことを目標にしており、排出をゼロにするまでは求めていません。つまり、低炭素社会は減らすことを目指し、脱炭素社会はほぼゼロにすることを目指しているというゴールのレベルに違いがあります。
脱炭素社会とカーボンニュートラルの違い
脱炭素社会とカーボンニュートラルは、いずれも温室効果ガスを実質ゼロにするという目的は共通していますが、実現に向けたアプローチに違いがあります。カーボンニュートラルは、排出された温室効果ガスを森林などが吸収する量と相殺して、実質的にゼロにすることを指します。一方、脱炭素社会は、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料の使用を減らし、二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を限りなくゼロにまで削減することを目指します。
カーボンニュートラルの例として、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーを活用して二酸化炭素の排出量を減らし、植林活動などで、吸収量を増やす取り組みなどが挙げられます。他にも、大気中の二酸化炭素を回収し貯留する方法などもおこなわれています。脱炭素社会の実現には、カーボンニュートラルの発想を取り入れた工夫が必要です。
脱炭素社会実現への日本の課題
地球温暖化を防ぐためには、脱炭素社会の実現が欠かせません。しかし、日本ではいまだ多くの課題が残されています。特に、発電の多くを化石燃料に頼っている現状などは、大きな壁のひとつです。そこで、日本が抱える具体的な課題を分かりやすく整理して解説します。これからの対策を考えるうえで、ぜひ参考にしてください。
電力発電の化石燃料依存
日本の二酸化炭素排出量の約4割を電力発電が占めています。発電方法の内訳としては、従来から火力発電が主力でしたが、2011年の東日本大震災後に原子力発電所が停止したことにより、その依存度がさらに高まりました。
2022年度の発電電力量では、火力発電が約70%以上を占め、再生可能エネルギーは約22%に達しています。中でも火力発電はCO2排出量が非常に多く、天然ガス火力の約2倍にあたることから、大きな課題とされています。現状では依然として火力発電に大きく依存しており、化石燃料の燃焼による多量の二酸化炭素排出が続いています。
鉄鋼業による大量排出
鉄鋼業は日本の主要産業であり、インフラを支える重要な役割を担っていますが、同時に大量の二酸化炭素を排出してしまう課題があります。特に高炉を用いた製鉄方式はエネルギー消費量が多く、温室効果ガス排出の主因といえます。
鉄鋼業全体で排出されるCO2は日本全体の約12.5%を占め、製鉄の過程では、鉄鉱石の還元に必要な高温処理により、鉄1トンあたり約2トンのCO2が発生します。この状況を改善するため、業界では新技術開発や革新的な製造プロセスの導入が進められています。
運輸関連の脱炭素化の遅れ
運輸部門の脱炭素化は大きな課題となっています。自動車、航空機、船舶など、多くの輸送手段が依然として化石燃料に依存しており、個人車両から物流用車両まで、その排出量は無視できません。電気自動車の普及が進んでいますが、まだ十分とは言えず、製造過程でのCO2排出量がガソリン車を上回る点も問題です。運輸関連で温室効果ガスを減らすには、さらなる技術革新が必要です。
中小企業ではコスト不足がある
環境負荷を下げる取り組みは、中小企業にとって大きな負担になる場合があります。特に、再生可能エネルギーへの切り替えや、電気をあまり使わない省エネ設備への入れ替えなどは、初期投資がとても高いです。
大企業であれば資金に余裕がありますが、中小企業では限られているため、高額な初期投資は容易なことではありません。また、中小企業では、環境問題についての専門知識を持った人材が社内にいないことも多く、計画を立て、具体的に何をすればいいかを判断するのも難しいという側面もあります。こうした複数の問題が重なってコスト的に、とてもハードルが高いといえます。
脱炭素社会実現のための日本の取り組み
気候変動への対応が世界的な課題となる中、日本でも二酸化炭素排出の削減に向けた取り組みが加速しています。炭素に価格をつける仕組みや、地域単位でのCO2排出ゼロを目指す動き、再生可能エネルギーや新技術の導入など、さまざまな対策が進められています。そこで、日本国内で進行中の具体的な取り組みをお伝えしますので、今後の施策を考える手がかりとしてご活用ください。
カーボンプライシングの検討
カーボンプライシングとは、炭素に値段をつける政策手法の1つです。二酸化炭素を排出した企業や法人に、課税などをおこなう制度を指します。国内でおこなうカーボンプライシングの種類は、主に以下の3つが挙げられます。
| カーボンプライシングの種類 | 内容 |
| 炭素税 | 二酸化炭素の排出量に比例した課税をおこなう |
| 国内排出量取引 | 企業に二酸化炭素の排出量の上限を設定し、上限を超えた場合は、余裕のある企業の排出量を購入する仕組み |
| クレジット取引 | 省エネ設備や再生可能エネルギーの使用で削減した二酸化炭素量をクレジットとして認証してもらい売却などで活用する制度 |
二酸化炭素排出量に価格をつけて取引することで、新たな経済市場ができあがることも期待できます。クレジット取引など一部の制度はすでに実施しています。しかし、取引の公平性を保つために、さらなる議論がすすめられています。
ゼロカーボンシティの推進
ゼロカーボンシティとは、2050年までにCO2排出量の実質ゼロを目指す自治体のことです。各地域の特性を活かし、再生可能エネルギーの導入や地域資源の有効活用など、多様なアプローチで脱炭素化に取り組んでいます。例えば、木くずや食品廃棄物などを燃料とする発電や、公共施設への太陽光パネル設置などが各地で進められています。
2025年1月現在、1100を超える自治体がこの構想に参画しており、その数は着実に増加傾向にあります。この動きは、持続可能な社会の実現に向けた地域主導の取り組みとして広がりを見せています。
イノベーションの促進
脱炭素社会の実現に向けて、革新的技術開発が急速に進んでいます。鉄鋼業では、水素還元技術を用いた試験炉でCO2排出量を約43%削減する成果を上げました。そして、電力分野では蓄電池技術の進化や、再生可能エネルギーの安定供給を支えるスマートグリッド(ITを活用した次世代の電力網)の導入も加速しています。また、CO2を回収して、燃料として再利用する技術やスマートシティの構築など、多様な分野でカーボンニュートラル技術が進化しています。政府は「グリーン成長戦略」を通じて、経済成長と環境適合の両立を目指しており、産学官連携によるイノベーションが、CO2排出量実質ゼロの達成に不可欠です。
エネルギーミックスの実現
エネルギーミックスとは、さまざまな種類のエネルギーの組み合わせのことです。これには、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料のほか、原子力や、太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱・潮の力といった再生可能エネルギーなどが挙げられます。どのエネルギーをどのくらい使うかは、その地域ごとの資源や、エネルギーに関する方針によって決まります。このバランスは、電力の安定供給や経済の安定、そして地球温暖化を防ぐためにもとても大切です。
企業が知っておきたいGX
GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を、ただの環境対策ではなく、経済を成長させるチャンスととらえて、産業のあり方や社会の仕組みを大きく変えていこうという考え方です。この取り組みは、気候変動への対応だけでなく、エネルギーの安定確保や環境にやさしい技術(グリーンイノベーション)の推進、そして経済成長を目指しています。
日本では、化石燃料への依存を減らすために、今後10年間で官民あわせて約160兆円を投資し、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、電気自動車、省エネに優れた建物やインフラなどに力を入れています。また、「GXリーグ」という新しい仕組みをつくり、企業同士が業界を超えて協力しながら、温室効果ガス削減と経済発展の両立を目指しています。
脱炭素実現のために企業ができる取り組み
脱炭素社会を目指して、多くの企業が二酸化炭素などの温室効果ガスを減らす取り組みを進めています。まず、自社から出る排出を「直接排出」「電力由来」「取引先などの間接排出」という3つの種類に分けて、それぞれに削減の目標を立てています。そして、LED照明や省エネ設備の導入、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用が広がっています。また、環境に優しい技術やサービスにお金を投資したり、社員の意識を高めたりと、会社全体で脱炭素に取り組む動きも加速しており、こうした努力は、環境を守るだけでなく、企業の新しいビジネスチャンスにもつながるはずです。
まとめ
今回は、脱炭素社会について詳しく解説し、日本が直面している課題、たとえば発電部門の化石燃料依存や鉄鋼・運輸業の高排出構造、中小企業におけるコストの負担などについてもお伝えしました。環境にやさしい社会を実現するには、社会全体の構造を見直す長期的な取り組みが必要ですが、それと同時に、自社の状況に応じた現実的な対策を早急に講じることも重要です。中小企業でも始めやすい脱炭素対策についての詳しい情報は、下記のページをご覧ください。
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