顕熱と潜熱の違いは?熱の基本から工場現場での活用例まで紹介

工場では、生産効率や快適な作業環境を維持するうえで、熱エネルギーの効果的な利用が欠かせません。熱には、物の温度を直接変化させる「顕熱」と、水の蒸発など物質の状態を変える際に必要な「潜熱」の2種類があります。
顕熱は温度変化をともなう熱であるのに対し、潜熱は温度を変えずに物質の状態を変える熱で、その違いを理解することが省エネ施策や設備投資の判断に重要です。
例えばエアコンの冷房では、空気の温度を下げる顕熱の調整と同時に、湿度を管理する潜熱の制御が不可欠であり、これらを適切に使い分けることでエネルギー効率が向上します。本記事では、顕熱と潜熱の基礎知識をわかりやすく解説するとともに、工場現場での具体的な活用例やコスト削減のポイントを紹介し、設備投資の検討や新人教育に役立つ情報を提供します。
目次
顕熱と潜熱の違いは温度変化の有無にある
顕熱と潜熱の違いは、温度が変わるかどうかです。顕熱は、室内の気温が実際に上下するようなエネルギーで、私たちが暑い・寒いと感じ、温度計で確認することができます。エアコンで室温を下げる、暖房で暖めるといった、身近な温度変化がこれにあたります。
一方、潜熱は、氷が水に変わる、水が蒸気になるといった、物質の状態が変わるときに出入りするエネルギーのことです。このとき温度そのものは変わらず、温度計でも測定できません。
例えば、氷が水に変わるときにはエネルギーが加わっていても、温度は0℃のままです。空調や工場の現場では、空気中の湿気を調整する際にこの潜熱の性質が活かされています。
顕熱とは
顕熱とは、空間の気温に直接影響を与えるエネルギーのことです。実際の温度が上がったり下がったりすることで、私たちが体感できる変化が生じます。このエネルギーは、湿度や状態変化をともなわず、温度の変化だけが生じるのが特徴です。
例えば、太陽の光でアスファルトが熱くなる、焚き火のそばで体が暖まるなどが該当します。空調機器においては、室内の気温を調整する能力として扱われ、顕熱容量という言葉で冷房効率などを示す際に用いられます。
また、顕熱のみを対象として熱を移動させる装置に「顕熱交換器」があり、これは温度だけを交換するため、湿度を変化させずに空気の熱を入れ替えたい場合に有効です。特に清浄度や湿度が厳密に管理される空間での換気システムに活用されます。
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潜熱とは
潜熱とは、物質が氷から水、水から蒸気へと状態を変える際に出入りするエネルギーを指します。このとき、温度は一定のままで、エネルギーは物質内部の分子の結びつきを変えることに使われます。
空調機器の除湿機能では、この働きが活用されており、空気中の余分な水分を効率的に取り除く際に大きな役割を果たします。この性能は潜熱容量として表され、湿度調整能力の指標となっています。
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顕熱と潜熱の工場現場での具体的な活用例
工場では、加熱や冷却、水が蒸気に変わるときの熱のやりとりなど、さまざまなかたちでエネルギーが利用されています。例えば、食品の加熱には温度を上げるための熱が使われ、蒸気による加熱では、水が気体になるときに発生する力が活かされています。こうした温度の変化や状態の変化にともなう熱の使い方について、いくつか具体例をご紹介します。
打ち水による省エネ効果
工場の敷地でおこなう「打ち水」は、顕熱と潜熱の特性を活かしたシンプルかつ効果的な取り組みです。地面に水をまくと、やがてそれが蒸発して空気中へと変化します。この過程で周囲のエネルギーが吸収され、結果として地表や周囲の空気の温度が下がります。これは、蒸発時に使われたエネルギーによって気温が下がったためです。
屋外の気温が少しでも下がれば、空調機器などの冷却装置が排出する負荷も軽減され、電力消費を抑えることにつながります。こうした仕組みにより、打ち水はシステム全体の省エネに役立ちます。
エアコンでの熱管理
工場内の空調管理では、温度だけでなく湿度の調整も重要です。エアコンは、室内の空気を冷やすことで気温を下げると同時に、空気中の水分も取り除いています。気温にかかわる調整は体感的にもわかりやすく、温度計などで確認できますが、水分の調整に必要なエネルギーは見えにくいです。
機械の稼働や人の動き、外気の流入などによって室内にはさまざまなエネルギーの流れが発生します。これらをバランスよく処理するには、空調設備、ヒートポンプ、熱交換器などの組み合わせが不可欠です。エアコンはこの中核として、気温と湿度の両方を管理しながら省エネ効果を生み出しています。
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熱交換器の活用でコスト削減
熱交換器は、異なる流体間(気体・液体間)でエネルギーだけを移動させる装置で、工場の省エネ対策において非常に有効です。例えば、製造工程で発生した高温の排出流を利用して、別の流体をあらかじめ温めることができます。これにより追加の加熱が不要になり、エネルギーの無駄を減らせます。
また、空調においても室内から屋外へエネルギーを効率よく逃がすことができるため、空調機器への負荷が軽くなり、電力使用量を抑えることができます。
温度と湿度の両面での制御が可能になるため、全体として空調効率が向上し、運転コストの削減につながります。熱交換器はステンレス鋼など耐久性の高い素材で作られることが多く、腐食や汚れにも強いため、長期的に使え、さらに維持管理費の削減にも役立ちます。
省エネ施策と熱管理でコスト削減可能
エネルギーの使い方を見直し、効率的に管理することは、工場のコスト削減に直結します。エネルギー価格の高騰や供給の不安定さが課題となる中で、省エネへの取り組みは非常に重要です。
例えば、照明を必要最小限にしたり、室温設定を調整したり、設備の点検をこまめにおこなうといった手軽な対策でも十分に効果があります。また、空調機器による気温と湿度の両面の管理、エネルギーの再利用を可能にする熱交換器の導入、さらにこれらを日々の運用の中で最適に活用することによって、全体の消費を減らし、効率よく工場運営できます。
このように、温度と湿度の調整を中心としたエネルギー管理を進めることで、工場の運用コストを抑え、収益性の向上につなげてください。そして、自社工場がどう取り組めるのか、具体的な方法は下記のページよりご相談ください。
関連サービス:省エネ/排熱回収コンサルティング
まとめ
工場では、空気の温度を上下させるような直接的な熱の使い方と、物質が蒸発・凝縮・融解などの状態変化を起こす際に必要となる熱の働きを、それぞれの場面に応じて活用しています。
こうした使い分けは、ただの温度調整にとどまらず、除湿や熱回収、熱交換といった目に見えにくいエネルギーの循環にも関係しており、結果として空調機器や生産設備の負荷軽減、電力消費の削減などにつながっています。
例えば、打ち水による気温低下、熱交換器による熱の再利用、エアコンによる温度・湿度の制御など、現場ではさまざまな工夫がなされています。
これらの技術を組み合わせることで、エネルギーコストを削減すると同時に、設備の長寿命化や作業環境の改善を実現することができます。今後ますます求められる省エネ対応のために、今回お伝えした熱管理の考え方と具体例をお役立てください。
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