2020.08.12

ヒートポンプとは?廃熱に有効なヒートポンプの仕組みと種類

KOBELCO

熱機関において、機器稼働時に生じる熱のことを「廃熱」と呼びます。工場設備稼働時をはじめ大量に発生した廃熱を利用する上で有効な装置が「産業用ヒートポンプ」です。ここでは、ヒートポンプの仕組みと種類について解説していきます。

 

ヒートポンプとは

ヒートポンプとは、空気熱、地中熱、排熱・放熱などの熱を採集し、高温熱として再利用する装置のことです。身近なところではエアコンや給湯器にヒートポンプが利用されています。

化石燃料と異なり、空気熱、排熱、排水、地中熱などを熱源とするヒートポンプはCO2を排出せしません。廃棄された熱を再び利用することから省エネに直結し、さらに従来は捨てられていた未利用熱の有効活用という特徴を持っています。

 

どんな所で活躍できる?

ヒートポンプを稼働すると、同時に冷風や冷水が作れることから、特に[温]と[冷]を同時に利用する施設では非常に有意義な運転手段となります。また「夜間蓄熱」を利用すると、割安な夜間電力を使ってヒートポンプを運転し、蓄熱槽の中に冷・温水を蓄えて、昼間に冷暖房や給湯に利用することができます。

稼働する上で最も重要な事は、しっかりした熱源を確保することです。熱源なくしては、どんなに性能が良い機器でもその能力を発揮することは不可能となります。地中熱や未利用エネルギーの確保をすることで大幅に性能アップが期待できることも特徴です。ただし外気が冷たい極低温環境の場合、ヒートポンプの性能は当然低下してしまいます。

 

ヒートポンプで空気熱を利用する場合

空気は熱を持っており、ヒートポンプを使うことで、その熱を吸収して集めることができます。温度の低い空気は熱がないようにも見えますが、温かい空気と比べて熱が少ないだけでないわけではありません。

ヒートポンプは、そのような温度の低い空気が持つ熱も含めて熱を集めることができる装置です。熱を集める仕組みとしては低温のガスを冷媒として用いています。熱は基本的に温度が高い方から低い方へ移動します。その仕組みを利用して、冷媒が熱を吸収して運ぶ役割を果たします。

関連ページ:熱交換器とは何か?その基本的な仕組みと種類を紹介

 

 

ヒートポンプの種類

ヒートポンプは現在、以下のような用途で広く使用されており、「圧縮式」と「吸収式」に大別されます。

ヒートポンプの主な用途

・家庭用・業務用空調

・冷凍・冷蔵倉庫の冷却、業務用冷蔵庫の冷却、冷凍・冷蔵ショーケースの冷却

・家庭用・業務用給湯、業務用乾燥

・工場の温水・熱水・冷却水・蒸気製造

 熱が必要なときにはヒーターなどを使用して熱を発生させるのが一般的です。この際に、燃料を消費しており、コストもかかっています。その点、工場の排熱は設備を稼働させることで発生し、何もしなければただ放出されるだけです。

 ヒートポンプで排熱利用をすれば、そのような工場の排熱を集めて有効活用できます。ヒートポンプを動かすのにもエネルギーを消費しますが、ヒーターを使用するよりも少ないエネルギーで多くの熱を利用可能です。

 

圧縮式ヒートポンプ

圧縮式は空気熱、排熱、地中熱などの気体を熱源にするヒートポンプです。コンプレッサーを使用して冷媒を圧縮したり膨張させたりすることで、温度を変化させるのが特徴です。

気体は圧縮されて体積が縮まると温度が上がります。逆に膨張して体積が増えると温度が下がる仕組みです。この性質を上手く利用して熱を奪ったり、放出したりしています。気体が圧縮されると温度が上昇し、逆に膨張すると温度が低下する気体の物理的特性を利用しています、主に冷暖房や給湯の熱源として使用されています。

 

吸収式ヒートポンプ

吸収式では冷媒に水を用いて、蒸発と吸収、再生、凝縮を繰り返すのが特徴です。

液体の水が熱を奪って温度が100度以上になると、蒸発して水蒸気になります。これに吸収器にかけると、水に戻り熱が発生する仕組みです。さらに再生器にかけることで、再び水蒸気に戻ります。そして凝縮器で再び水に戻して熱を発生させるというサイクルです。

 

 

ヒートポンプで排熱利用を行う仕組み

吸収式は液体のサイクル(蒸発、吸収、再生、凝縮)により発生する気化熱を利用したヒートポンプとなっています。冷媒に水を用いて、蒸発と吸収、再生、凝縮を繰り返すのが特徴です。

蒸発器、吸収器、再生器、凝縮器の「四器」で蒸発・吸収・再生・凝縮の「液体サイクル」を繰り返し、吸収器と凝縮器で発生する熱を利用する仕組みです。液体の水が熱を奪って温度が100度以上になると、蒸発して水蒸気になります。これに吸収器にかけると、水に戻り熱が発生する仕組みです。さらに再生器にかけることで、再び水蒸気に戻ります。そして凝縮器で再び水に戻して熱を発生させるというサイクルです。吸収式は主に産業用や地域熱供給の熱源として使用されています。

 

 

産業用ヒートポンプとは

産業用ヒートポンプとは、主に製造業で使われているヒートポンプです。マイナス60℃から150℃まで温度域の熱需要に対応しており、工作機械、鉄・非鉄金属、窯業、化成品、食品加工など広範な業種において空調、冷却、加温、乾燥、殺菌、洗浄などの製造工程に導入されています。

産業用ヒートポンプは、加熱・冷却の民生用と同じ機能に加え、排熱の温度を再生する「熱リサイクル」機能を有しているのが大きな特徴です。したがって産業用ヒートポンプを生産工程に組み込むと、生産工程の排熱を再利用できるので、生産現場における一次エネルギー消費量の大幅削減が可能になります。

 

産業用ヒートポンプが注目される理由

工場では生産工程の冷却、加温、乾燥、殺菌、洗浄などのため、大量の熱を消費します。これらの熱の63%は化石燃料を燃焼させる直接熱で供給され、23%がボイラーで製造した蒸気熱で供給されます。

例えば産業用ヒートポンプの省エネ効果が高いと言われる蒸気の場合、ボイラー室で高温・高圧蒸気(一般的には170℃・8気圧)として製造され、総延長100m以上の蒸気配管により、蒸気を使う作業場へ供給されます。そして作業場の減圧弁で使用目的に適した温度・気圧(一般的には120℃・2気圧)に調整し、作業現場で使用します。

このため工場の蒸気はボイラー室、蒸気配管、作業現場の各過程で大量の熱ロスが発生します。熱ロス率はボイラー、蒸気配管、減圧弁などの経年劣化により異なりますが、一般に投入燃料に対して30―70%のロス発生が計算されています。熱ロス削減を図るため、蒸気配管の保温ジャケット・保温材装着、蒸気使用現場でのドレン回収などの省エネ対策が実施されていますが、「期待した効果は低い」と一般に言われています。

こうした中で最も実効的な熱ロス削減対策が、産業用ヒートポンプです。ヒートポンプはボイラー室と異なり作業現場へ直接設置できるので、まず供給過程で熱ロスが発生しません。さらに作業現場に充満している高温排熱を熱源にできるので、ボイラーように化石燃料による加熱も不要です。

こうした産業用ヒートポンプの特性が工場の大幅な省エネ実現、熱ロスに伴うエネルギーコスト削減、CO2排出削減などを可能にしており、これが製造業で産業用ヒートポンプが注目されている理由と言えるでしょう。

 

 

産業用ヒートポンプの種類

産業用ヒートポンプは熱源の媒体により様々な種類があり、これらは次の3タイプに大別されます。

 

排熱回収式ヒートポンプ

生産工程で排出される排気・排水、コンプレッサーの冷却水をはじめとする低温熱を回収して高温熱に再生、温水や熱風を供給するタイプです。例えばこのタイプを導入すると、従来は冷却塔で排水していたコンプレッサーの冷却に含まれている低温熱を回収し、洗浄工程の加温(約60℃)に利用できます。ボイラーでの加温と比較し、約40%のエネルギーコスト削減が可能とされています。

 

冷・温水同時利用式ヒートポンプ

食品加工のように、同一工場内で冷水と温水を使用している場合は、冷却水循環装置で冷却した後の排水を熱源に、1台のヒートポンプで冷水と温水を同時供給できるタイプです。例えばボイラーで温水を、冷却水循環装置で冷水を製造している場合は、このタイプを導入すると、温水と冷水の同時製造が可能となり、従来比約70%のエネルギーコスト削減が可能とされています。

 

空気熱源利用式ヒートポンプ

空気を熱源とするタイプです。このタイプは熱源の制約がなく、設置場所の自由度が大きいので、加温槽の隣など加熱場所に隣接した場所に設置が可能です。また屋内に設置した場合は、ヒートポンプから発生する冷風で作業場の冷房効果もあります。例えば金属部品の表面処理工程にこのタイプを導入すると、金属表面処理の薬液槽の加温(50℃〜55℃)が可能なので、従来の蒸気加温と比較し約30%のエネルギーコスト削減が可能とされています。

 

 

産業用ヒートポンプの導入事例

製造業の工場において、最も熱需要が多いのは蒸気、熱風、冷水・温水の「三熱」と言われています。ここではそれぞれの熱需要における産業用ヒートポンプの導入事例を紹介します。

参考:産業用ヒートポンプ博書(NEDO)

 

(1)食品加工業A社の場合

埼玉県内で操業している同社の主力工場においては、工場敷地内の片隅にボイラー室を設置。殺菌・洗浄を行う作業場へ蒸気を供給していました。ボイラー室からの蒸気配管の総延長距離は900m達していました。

そこで同社は主力工場に冷・温水同時利用式の産業用ヒートポンプを2台導入。殺菌・洗浄を行う2カ所の作業場内に設置、ボイラー室と蒸気配管を撤去しました。これにより従来と変わらない120℃の蒸気供給体制を確保しました。同時に夜間の割安電力を利用し、夜間に温水を貯湯できる貯湯タンクを設置。朝8時の始業開始と同時に工場管理事務所と製造現場の各所に90℃の温水を給湯できる体制も整えました。同社は主力工場において、75%のエネルギーコスト削減と85%のCO2排出削減を達成したといいます。

 

(2)化成品製造業B社の場合

同社は複数有している工場の内、横浜工場でプラスチックフィルムを製造しています。そして同社は2006年4月1日に施行された大気汚染防止法改正に伴いうVOC(揮発性有機化合物)排出規制に対応するため、横浜工場にVOC処理装置を導入しました。すると同装置から55℃の排熱が発生しました。

そこで同社はこの排熱を再利用するため、プラスチックフィルムの乾燥工程に排熱回収式の産業用ヒートポンプを導入、80℃の熱風供給体制を整えました。ヒートポンプ導入前はボイラー室で蒸気を製造し、熱交換器で熱風を乾燥工程に供給していました。これにより同社は横浜工場において、75%のエネルギーコスト削減、72%のCO2排出削減、60%の重油消費削減を達成したといいます。

 

(3)自動車部品製造業C社の場合

川崎市内の工場で自動車部品を製造している同社は、部品の切削工程で切削液の冷却水を供給するため、冷却水循環装置で15℃の冷水を製造していました。同時に洗浄工程で洗浄液を加熱するためボイラー室で65℃の蒸気を製造、熱交換器で洗浄液を加熱していました。ボイラー室は洗浄工程の現場から300m離れた場所に設置していたので、計測すると熱効率は10%しかありませんでした。

そこで同社は冷・温水同時利用式の産業用ヒートポンプを切削工程と洗浄工程の作業場2カ所に導入しました。その結果、79%のエネルギーコスト削減、80%のCO2排出削減、84%の重油消費量削減を達成したといいます。

 

 

まとめ

ヒートポンプは、熱を集めるための装置で、排熱利用をするときに有効な装置です。ヒートポンプで工場設備から排出される熱を集めて、排熱利用をすれば、ヒーターよりも少ないエネルギーで熱を発生させられます。

「ヒートポンプを付ければ省エネ」という考えではなく、特性と効果を検証し、有効的に使用することが大切です。ヒートポンプは燃焼、排気ガスを伴わないため、大幅なCO2排出削減+環境改善にも貢献できます。

そして製造業における省エネの実効性が高いと言われる産業用ヒートポンプは、その導入事例発表数の増加と比例する形で導入が増加しています。しかし製造現場に産業用ヒートポンプを設置し、エネルギーコストやCO2排出の削減を実現するためには、熱源からの熱回収効率を始めとする産業用ヒートポンプに関する専門知識が必要になります。したがって産業用ヒートポンプの導入に際しては、実績が豊富な専門会社のアドバイスを受けるのがおすすめです。

アルファラバルの熱交換器やヒートポンプによる排熱利用と省エネならMDI TOPへ戻る

 

お問い合わせ